[外伝作品] 魔法少女たると☆マギカのあらすじ・考察・ネタバレ

まどマギシリーズの外伝作品である「魔法少女たると☆マギカ」のあらすじや考察、感想をまとめています。マギアレコードにも登場するキャラクターたちの参考にしてください。ネタバレを含みますので、閲覧にはご注意ください。

刊行作品リスト
魔法少女たると☆マギカ 全5巻



作品概要

概要

原案:Magica Quartet、漫画:枡狐/蛙空による魔法少女まどか☆マギカシリーズの外伝作品。まどマギの外伝作品としては、魔法少女おりこ☆マギカシリーズ魔法少女かずみ☆マギカ魔法少女すずね☆マギカに次いで4作品目となる。

「まんがタイムきらら☆マギカ」誌上で連載され、2017年2月9日発売のVol.30にて完結。最終巻となる第5巻は2017年4月12日に発売された。全21話。

歴史上に実在する15世紀のフランスの軍人「ジャンヌ・ダルク」が魔法少女であったという設定を基にストーリーが展開されている。舞台は違えど、本編やこれまでに発行された外伝作品はあくまで現代の魔法少女を描いているが、歴史上の人物に焦点を当てており、まどマギシリーズとして新しい切り口での展開である。
また、本作はアニメ本編から続いた物語となっている。 TVアニメシリーズ第12話で一瞬ではあるが、本作第1話の冒頭と同じシーンが使われている。




出典:魔法少女まどか☆マギカ 第12話

本作における「キュゥべえ」

本作においても、魔法少女を契約する存在としてインキュベーターであるキュゥべえは登場しており、「キューブ」と呼ばれている。本編で登場するキュゥべえと差異はないため、単に時代によるものか、発音などの理由でそのように呼ばれているものと思われる。
なお、耳から延びた触手についている輪っかを天使の輪ではないかと考えたタルトから、「天使様ですか」と尋ねられ、「そのように呼ばれたこともあった」と答えたために、タルトや一部の登場人物からは「天使様」とも呼ばれる。素質がある者以外には見えないというのも同様。

以降、本頁では作中の表現に合わせてキュゥべえではなくキューブと表記する

キャラクター

漫画家、蒼樹うめによりデザインされた魔法少女まどか☆マギカのキャラクターたちは、彼女の得意とする独特な丸顔とタレ目が取り入れられた特徴的なキャラになっているが、アニメ本編から続く外伝作品ということもあり、蒼樹うめのキャラクター原案に近いのが特徴で、これまでに登場した外伝3作品とは異なる。

また、衣装デザインも本編に比較的寄せられており、過度な露出も見られず、中世風のドレスや甲冑をモチーフにされたものが多い。

登場キャラクター

魔法少女たると☆マギカに登場するキャラクターの一覧です。ネタバレを含みますのでご了承ください。

タルト (ジャンヌ・ダルク)

ドンレミ出身の魔法少女。もともとはジャネットという名で呼ばれていたが、キューブから「タルト」と呼ばれることになった。魔法少女としての願いは「フランスに光をもたらす力」。リズが村を離れた際に野党に襲われ、妹と死別してしまう。その時、この国の惨状を打破すべく、彼女は魔法少女となったのである。武器は剣や旗槍を自分の意志で召喚して使用する。また年齢に関する描写は無いが、史実をもとにすれば、17歳~19歳の頃の約2年間を描いている。リズの一歳年下。



リズ・ホークウッド

魔法少女としてはタルトの先輩にあたる。彼女の願いは「自らの手で真の英雄を誕生させる」こと。自分は英雄の影になるというその願いからか、魔法少女としての能力は影を自在に操るというものである。英雄を探す旅をキューブと行っており、訪れたドンレミの村でタルトと出会う。年齢はタルトの1つ上。タルトによれば大人っぽく、もっと年上に思っていたとのこと。



メリッサ・ド・ヴィニョル

シャルル王太子(のちのシャルル7世王)のお抱えの傭兵、エティエンヌ (通称ラ・イル)の一人娘。宮廷で給仕についたり、従軍し、父の戦闘の後方支援などを行っていたが、ある時タルトたちの従者となり、オルレアン解放作戦へ同行する。年が近いこともあり、すぐタルトたちと打ち解け友人となるが、後の戦いで父とタルトが敵から瀕死のダメージを受けてしまった際、そこに現れたキューブに、父とタルトを救うことを願って魔法少女となる。武器はランスと、そこから結ばれた槌(ポールウェポン)。そこにある物質を消し去る消滅魔法を使用する。



エリザ・ツェリカ

所属するドラゴン騎士団に下された使命のため、ヨーロッパ中を駆け回る日々を過ごし、高い戦闘力もその中で磨かれた。この時代にはオーバーテクノロジーといえる、斧や突剣が一体となった五連結の銃器を武器とするが、これはペレネルから授かったものである。
突如現れた『乙女』の力を計り、シャルル王太子の戴冠に尽力せよとの命により、タルトたちと行動を共にするようになる。



ペレネル・フラメル

魔法少女であり、錬金術師でもあるという彼女は突如タルトたちの前に現れる。なにか企みを抱いているようにも思われるものの、共通の敵をを持つタルト達を影から見守っており、タルトやエリザに、魔法で治金した武器を渡すなど協力を惜しまない。
ペレネル・フラメルの名は、不老不死や賢者の石を生成したなどの伝説を持つ著名な錬金術師ニコラ・フラメルの妻、また共同研究者として、歴史にその名を残している。



コルボー

三姉妹の次女。姉妹のことをいつも大切に思っており、姉のラピヌの我儘に付き合うことに喜びを感じ、ミヌゥも実に心優しい妹に育ってくれたことに嬉しさを隠せない。
「自身の全ての魔力消費を、他の魔法少女に押し付ける」という能力を持っており、ソウルジェムが濁ることなく魔法を使用でき、その戦闘力はスバ抜けている。また、一帯に羽根をばらまき、それに触れたものにペスト(黒死病)を発症させるという凶悪な能力も持つ。



ミヌゥ

三姉妹の三女。本作における真の黒幕。本人は戦闘に参加することはほとんどなく、弱った相手を一方的に甚振ることを好む。空間移動や拷問具を模した武器や剣での攻撃などを見せるが、本人の戦闘能力はさほど高くない模様。

ラピヌ

幼い容姿ながら、3姉妹の長女である。単純な戦闘力は他の2人と比べればかなり劣るものの、魔法少女→魔女→魔法少女→・・・と、本来不可逆であるはずのサイクルを繰り返す、疑似的な不死の力を持つ。魔女となったラピヌは、周囲にある武器をすべて自分のもとへ集め、ひと塊にして攻撃や防御を行う一方、マントに現れた目や本人の目で見られた魔法少女は変身が解けてしまうという強力な技を使用する。

フレシュ / ラム

三姉妹が連れている魔法少女。フレシュは矢、ラムは刃の意味を持つ。契約の際に自由意志が奪われているが、二人とも戦闘力の高い魔法少女であった。二人ともタルトたちにタオ荒れるとミヌゥによって魔女へ墜とされてしまった。


イザボー・ド・バヴィエール

本作の黒幕。実在した「売国妃 イザボー・ド・バヴィエール」本人がモデル。イザボーはすでに魔女と化しており、その姿は魔女としての抜け殻であり、ただの傀儡である。かつて「あなたのすべてが欲しい」とインキュベーターに願い、不滅の肉体をもつ、魔法少女を生み出すことができる魔法少女となった。しかし肉体は不滅であっても精神はソウルジェムそのものであり、彼女の思惑とは裏腹に、イザボーは魔女化してしまうのであった。だが、その強大な因果はそんな運命さえ捻じ曲げ、娘ラピヌの願いにより、魂は不完全な形で魔女に定着してしまうのであった。



第1巻


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第1話


彼女はひとりぼっちだ
まるで人々の恐れの念が
炎の環となって彼女を包んでいるかのように

しかし誰がしんじるだろう
彼女はやはりただの少女なのだ―

ジュール・ミシュレ-魔女-

 

1431年5月30日、ルーアン市内のヴィエ・マルシェ広場において火刑に処される、後にジャンヌ・ダルクと呼ばれることになる少女の姿を映し、本作の物語は幕を開ける。

1429年パリ近郊で野営を行っていたタルトは、寝ていたところをメリッサに起こされる。随分魘されていたようだと語るリズに、タルトは何か夢を見ていたようだと告げる。その二人に割って入るようにエリザが準備を促すと、タルトは身支度を整え、立ち上がる。
「さぁいきましょう。フランスに光をもたらすために」

西暦1429年
フランスは百年戦争のただ中にあった。

フランスの王位継承を狙うイングランドとの対立を機に、長く続くこの戦争。正当な王位継承者であるはずの王太子シャルル率いるフランス軍。それに対抗するイングランド軍は同じくフランスの王族であるブルゴーニュ公と手を結ぶ―

身内であるはずだったブルゴーニュ公の裏切りにあった王太子側は徐々に力を失い、連合イングランド側の勢力に対抗しきれず、フレンスの半分がイングランド及びブルゴーニュ公のものとなっていた。

そうして フランス軍は連合イングランド軍により、さらなる窮地へと追い詰められつつ

あった―


目覚めたタルトは、仲間たちに状況を確認すると、魔女に与するものがいると報告を受け、イングランド軍が守る砦に向かうのであった。

フランス軍は、圧倒的不利な戦況に置かれておきながら、その後、一人の少女によってわずか4カ月のうちにこの戦況を変えることになる。人々は彼女のことをこう呼んだ―
「―乙女(ラピュセル) ジャンヌ―と」


タルト、リズ、メリッサ、エリザの4人は砦に辿り着くと、その力で敵を一掃していく。しかし、そこに現れたのはイングランド軍側に着く魔法少女ミヌゥであった。タルトが「魔女」と呼ぶミヌゥに対し、話を遮って襲い掛かると、別の少女がタルトの攻撃を防ぐ。もう一人の魔法少女かと考えていると、ミヌゥはその少女を操り、役に立たないと判断すると、あろうことか魔力を吸収し、その少女を魔女化させてしまったのである。

そしてミヌゥは魔女を残し、姿を消してしまう。残された4人は力を合わせて魔女を撃破し、結界を抜けると、砦の戦いもフランス軍が勝利していた。フランス軍の仲間達は「乙女(ラピュセル)!乙女!」と彼女たちを讃えていた。

そこにインキュベーターこと「キューブ」が現れる。タルトが「天使様」と呼ぶキューブは、彼女たちの成長を讃え、出会ったばかりの頃について語り出すのであった。
(*本作品ではキュゥべえはキューブと呼ばれている。以降、作品内表記に合わせてキューブと表記する)

「乙女」「聖女」と讃えられし少女がいた―
―しかし「乙女」「聖女」と讃えられた少女は、のちに「異端」「魔女」の名を背負うことになる。

1425年 フランス ドンレミ
この小さな村より少女の物語は始まる―



第2話


「乙女ジャンヌ」が生を受けた地であるドンレミ。この村にある教会はフランスの守護聖人の一人であるレミギウスに捧げげられた教会「サン・レミ教会」といい ドンレミという村の名祢もここからきたものである。

ドンレミは非常に複雑な事情の上に成り立つ村で 国境付近のムーズ川上流という、古くは神聖ローマ帝国とフランス王国の支配権が入り組むエリアにあり、14世紀はじめまでは神聖ローマ帝国領として存在していた。その後フランス王領となったが、1425年当時には直接この地域に居住し村々を統括する領主は不在であった。

そのため治安的にも政治的にも不安定な立場となった ドンレミは常に周囲の武装勢力の脅威にさらされていた。


ドンレミにはさらなる不安材料もあった
フランス国内は、伝統的なフランス国王側を支持する 「アルマニャック派」
イングランド側に加担したブルゴーニュ公を支持する 「ブルゴーニュ派」
この二つの王権をめぐり対立する勢力に分かれており、ドンレミはアルマニャック派に属していた

しかしドンレミ一帯の地域はイングランドの実効支配下にある土地であり、ドンレミ周辺の村々は、ほぼ全てがブルゴーニュ派であった

少ないアルマニャック派としてはドンレミより およそ1 7kmほど北にあるヴォークルールという要衝地があったが 「周囲のブルゴーニュ派に対し激しい抵抗を続ける ヴォークルールには近いうちに連合イングランドドの総攻撃があるだろう」 といった類の話が近隣の村々には絶えず流れており、もしその様な事態に陥った場合は同じアルマニャック派であるドンレミもただでは済まないという不安感がドンレミの民には渦巻いていた


そのころ、ジャネットと呼ばれていたジャンヌは、妹のカトリーヌといつものように礼拝をしていたが、教会を出たとことで2人は不思議な光を目撃する。一緒にいた神父には見えなかったその光についていくと、2人はそこで魔女の結界に迷い込んでしまう。

結界の中には多くの兵士が生気ない様子で2人を襲っていく。ジャンヌが死を覚悟した瞬間、そこに謎の少女が現れ、彼女は兵士たちを制圧していく。さらに謎の白い生き物が現れ、その生物は自分のことを「キューブ」と名乗り、少女の名を「リズ」であると語った。そしてリズは兵士たちを一掃すると、直後に現れた魔女をもなんなく倒し、ジャンヌとカトリーヌの2人を救ったのである。

結界抜けると、ジャンヌはキューブの耳から触手に掛かるリングを、天使の輪であると考え、天使なのかと尋ねると、かつてはそのように呼ばれていたこともあるとの返答に、以降キューブを「天使様」と呼ぶことになる。

するとリズはジャンヌのことを探していたのだと言う。

戸惑う彼女だったが、キューブから名前を聞かれたジャンヌは、村ではジャネットと呼ばれていることを伝えると、フルネームを書く用に言われ、読み書きが不自由な上、神父に教わった自分の名前さえうろ覚えだがと付け加えた上でキューブに書いて見せると、それを「タルト」と読んだのである。そしてタルトにキューブは語る

「タルト、君に僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ」

1425年
未だ幼いジャンヌ・ダルクは初めて天使の声を聞いた

それが本当に天使という存在のものであったか、彼女にとっての光であったが、それを知るすべはない―
唯ひとつ確かなこと 圧倒的な闇 それがフランスには在った―


キューブはどんな願いでも叶える代わりに、リズと同じように魔女と戦う使命を持った魔法少女になってほしいとタルトに迫ってくる。


第3話

「願い事」ということに戸惑っていたタルトのもとに、父親がタルトと妹を探しに現れる。父はリズを自宅に招くと、命を助けてくれたことに感謝し、精一杯のもてなしで出迎えた。

そしてリズは自分を「リズ・ヴィスコンティ」と名乗った。(ヴィスコンティはイタリアの姓である。ホークウッドという本当の姓がタルトたちの村にとっての敵国であるイングランドの姓であるため、それを隠すためであると思われる)

リズはその後、緊張が解けてよく眠っているタルトの様子を見ていたところ、彼女は目を覚まし、キューブの姿を見たことでさきほどの出来事が本当にあったことなのだと理解するのであった。

キューブは目を覚ましたタルトに、さきほどの続きを語る。自分たちがタルトを探していたのは、魔女と戦う才能を持った子を探していたためであると。しかし、契約をせまるキューブに、自分は何の力もない普通の娘で、祈ることくらいしかできないから、また、奇跡であれば既に目の前で起こっていて、願いといっても大事な家族や村の人々に災いなく、幸があることくらいだからと、キューブの申し出を拒むのであった。

そうしていると、父親がリズの部屋にやってくる。そして、リズにこの村の警備を頼めないかと尋ねるのであった。キューブはもうしばらくタルトを説得しようと考えており、それを伝えるとリズはこれを承諾するのであった。

それを聞いた父が戻っていくと、キューブは変わらずタルトを説得する。無理強いはできないが、タルトの資質は本物であり、しばらくタルトたちの傍にいるから、願い事ができた時には伝えて欲しい、それまでは魔法少女がどういうものか体験してみるのもいいだろう―と。

それから、リズとキューブは村にとどまることになり、タルトとその妹カトリーヌは、せめて自分の身は自分で守れるようにと、リズから稽古を受けるようになっていく。奇跡的にも平穏といっていい時間が過ぎていき、リズたちが村に来てから3年の時間が過ぎていった。

1428年 ドンレミ村
キューブはリズに対し、願いも見つからないようだしそろそろ本格的に村を発つつもりであると告げる。リズはこれから護衛の仕事があるからと、どうするかはそのあとに決めようとタルトに伝えると、商隊について村を出て行った。

しかし、直後、リズがいなくなったのを見計らい、野党となった傭兵たちが村を襲いに来たのであった。すると、姉を庇おうと戦っていたカトリーヌは、後ろから刺され、あっけなく殺されてしまう。

リズが戻ると、村は悲惨な姿を晒していた。冷たくなったカトリーヌを抱きながら、タルトはキューブに尋ねる。自分の願いで妹と、この村すべてを元に戻すことはできるだろうかと。それに対しキューブは、タルドが願えばどんな奇跡だって起すことができる、それこそ村が襲われたという事実そのものを消すことさえ可能だと―

だがキューブは続ける。たとえ村や妹を救ったとしても、再び同じような悲劇に見舞われればまた失うことになるのだと。今のフランスはどこであろうと、こんなことは日常茶飯事で、いまだこの国は、決して晴れることの無い闇の中にいるのだと―

その言葉に感化されたタルトは、自分の長い後ろ髪を切り落としながら魔法少女になることを決意したのであった。

「フランスに光をもたらす力を」


大きな運命を背負う魔法少女の誕生
その誕生を祝福するかのようにフランス中に振り注ぐ光
光は強く暗雲を打ち払ってゆく
遍くものを照らす希望の光のように―


だが―強き光は闇をより際立たせる



第4話


1429年1月
ドンレミを襲った悲劇の年は明け、ぼんやりとした白い雲が一面に続くフランスの冬空の下、タルトたちは村から北の砦ヴォークルールへと歩みを進めていた―


家出同然に飛び出してきたことを良かったのかと尋ねるリズに、タルトは、村の復興も目途がついてきたこと、カトリーヌの墓前に誓ったように、キューブの声に従って行動するのが使命だと思っているから、いい機会だったのだと答える。

カトリーヌに助けられた命で魔法少女となったタルトは、同じように苦しむ人を出したくないと考えていたが、そのためにどうすべきか分からずにいた。そこでキューブはタルトに現在のフランスの状況を説明していた。現在、これほどまでに国が荒れているのは統治する王がいないからだと―

フランス王国の前身であるフランク王国。その初代国王はクロヴィス1世という。パリを都と定め、後のフランス王国の基礎をも築いたクロヴィス1世がランスで戴冠式を行って以来、フランス国王となる者は伝統的にランスでの即位を、その正統なものとしていた

王太子であるシャルルはブルゴーニュ派に支配されたパリから逃れ、たどり馬いたフランス南部のブールジュという場所で 自身の戴冠を行ったが対外的にもそれは 正統なものとは認められず、所詮「ブールジュの王」と侮蔑されていた 。

ランスへの要所はイングランド・ブルゴーニュ派に支配され動くこともままならない。シャルルは王宮のあるブールジュやシノンで未だ鬱屈した日々を送っていた


そして各地で様々な厄災をh義気越している魔女がおり、その混乱もフランスを席巻しようとしているイングランドの助けになっているのであると―

キューブは道を示す。魔法少女の使命として魔女たちを倒さなければならないが、その上で国を救いたいのであれば、イングランドの脅威を打ち払い、シャルル王太子に会い、彼を正統な王として戴冠させればいい。

そのため、王太子に謁見するため、まずはフランス王家と関係の深いヴォークルールの城主からの紹介を受けるためにと、ヴォークルールへ向かっていたのである。

ヴォークルール
12世紀に築かれたとも言われる強固な石壁と、17の塔をもつ城塞を中心とした街で、代々ボードリクール家が城主として治めている

ヴォークルール周辺はほぼすべてが敵対するブルゴーニュ派 (イングランド連合派) に征服されていたが、堅固な城砦によって、その攻撃に耐え、アルマニャック派(王太子派) としての抵抗を続けていた。


タルトたちが街に辿り着くと、様子がおかしいことに気づく。リズは魔力も感じ取っており、街の中に入ると、準騎士のジャンに出会う。彼によると、守備隊長でもある城主が忽然と姿を消してしまったという。

魔女の仕業であると考えたリズとタルトは砦に向かう。しかし、その中で、タルトとリズは分断されてしまう。砦自体が魔女そのものだったのである。とんだ初陣となってしまったタルトであったが、キューブの指示に従い、魔力で剣を創り出すと、大砲などももろとせず、一撃で内側から魔女の結界を破壊するほどの力を見せた。

なんとか魔女を倒すと、結界が破壊されたことで再びリズが合流するが、タルトのソウルジェムはリズが驚くほどに濁っていた。キューブによれば、タルトの力が強すぎたためだろうとのこと。そしてキューブはタルトに注意を促すと、リズは、魔法少女が魔女になるのだと付け加え、グリーフシードで浄化を行うのであった。

魔法少女の秘密を知って多少の同様を見せたタルトであったが、宗教での教え(人間は悪魔とかかわったり、心が墜ちたものは魔女になると伝えられており、その魔女を許すことはできないというもの) を引き合いに出してくる、彼女が天使様と呼ぶキューブの言葉に納得するのであった。

そこに魔女が倒れたことで、結界に捕えられていた城主「ボードリクール」が姿を見せる。リズは自分たちが天使の使命で魔女を倒しながら、シェルル王太子の戴冠のために動いていることを伝えると、自分たちと砦を救ってくれたリズ達一行を歓迎し、できる限りの力添えをすることを誓ったのである。

魔法少女となったタルトの行動のすべてが、すぐ結果に結びつくことに、出来すぎていると疑念を抱くリズであったが、キィーブは予想以上にタルトは強力な因果を宿しているのかもしれないと語ったのだった。


ジャンヌとその時代

以下、第1巻巻末より引用

■ジャンヌとその時代
今日、ジャンヌ・ダルクと呼ばれている少女、彼女が生前そう呼ばれていたことは一度もない。15世紀当時の一般庶民の問では貴族のように姓を名乗る習慣はなく、キリスト教における洗礼名や出身地方、通称(あだ名)などを付けて区別していた。

父親、ジャックが呼ぱれていたジャック・ダルク。この ダルクというのも正確な姓ではなく、当時の記録ではd'Ark , Dark , Dars , Darts , Tarc , Tartなどと一定していない。現代とは違い、綴字法が確立されていない時代ゆえ、正解を求めることは不可能となっている。 しかしながら同時代、ジャンヌ自らはジャンヌ・ラ・ピ ュセルと名乗り、また周囲からもそう呼ぱれていたということは、当時の書状を見ても明らかであったようである。

このジャンヌが生きた時代は「百年戦争」と総称される時代と綿密に絡み合い、切り離せないものとなっている。フランスとイングランド問で1337年~1453年までの百年余に及ぶ戦争は、終始連続したものではなく、幾度もの休戦をはさみ、断続的なものであった。 百年戦争勃発の主な原因は、フランス王位継承権問題であったが、これには両国の複雑な血縁関係にそれを見出す事ができる。

それは、フランス王の臣下であったノルマンディー公ギヨームが1066年のヘイスティングズの戦いに勝ち、イング ランド王位に登り、征服王ウィリアム1世(ちなみに、現在のイギリス王室の開祖である)となった事から始まる。 これによりイングランド王はノルマンディー公が代々兼ねる事となり、その後の歴代イングランド王の一族は、婚姻政策などによって、次々とフランス国内での領土も増やし、その存在感を強めていく。

時は経ち、幾度の政争や紛争により領土の増減はあった ものの、イングランド王は、より一層の力を持つようになっていた。しかしながらフランス国内においては、フランス王の一臣下としての扱いはあくまで変わることはなかった。だが1328年に大きな問題がフランスで勃発する。 それまでの歴代フランス国王として選出されてきたのは 王家一族の本流であるカぺ一家であったが、その男子継承者が絶えたことから、一族の支流であったヴァロワ家が王 位を継ぐこととなった。

これに異を唱えたのが、女系ではあるが本流のカぺー家の血も継ぐ、イングランド王エドワード3世である。 長男に、かの有名なエドワード黒太子を持つエドワー3世は、自らのフランス王位継承を認めさせようとするも、 フランス諸侯の協力を得られず、一旦諦めることとなる。 しかし、その後も虎視耽々と機を窺い続けたエドワード 3世は、1337年11月にフランス王家に宣戦布告。フランス 国内へ進軍をはじめ、ここに百年戦争が開戦する。

スロイスの海戦(1340年)を皮切りとして、エドワード黒太子が活躍したクレシーの戦い(1346年)、ポワティエの戦い(1356年)と、イングランドは勝利を重ねていく。ポワティエの戦いでは、当時のフランス国王ジャン2世を捕虜とするなど、圧倒的優位に戦争を進めたイングランドであったが、エドワード黒太子が病に臥せると共に、その優位は翳りはじめ、1376年にはエドワード黒太子が、1377年には工ドワード3世も死去し、リチャード2世(工ドワード黒太子の息子)が王位を継ぐ。イングランドはその後、内紛などに追われたことから戦争は膠着し、両国間には、しばしの緩和状態が訪れたかに見えた。だが戦争の爪痕は新たな問題をフランスへもたらしていた。1380年にフランス王となったのはシャルル6世(王太子シャルルの父)であったが、当時わずか12歳であり、その後見としてシャルル6世の叔父、ブルゴーニュ公フイリップが摂政を行っていた。1388年より成人したシャルル6世はフィリップを遠ざけ、親政を開始。疲弊した国内を立て直そうと、自らの弟であるオルレアン公ルイの補佐のもと奔走するも、1392年から精神を病みはじめ、政務を行うことが不可能となってしまう。そこで再びフィリップは息子のジャンと共に国政の主導権を得ようと画策するが、そこに王弟オルレアン公ルイが対立する。

 

このオルレアン公ルイを中心とした王家支持者を《アルマニャック派》ブルゴーニュ公フィリップ、ジャン支持者が《ブルゴーニュ派》と呼ばれることとなり、両派閥の対立は徐々に激しいものとなっていったが、1404年にフィリップの死後ブルゴーニュ公を継いだジャンが1407年、王弟オルレアン公ルイの暗殺を決行し、その対立は決定的なものとなる。


一方、その頃のイングランドは、同じように政争の内紛が頂点に達しようとしており、1399年にリチャード2世は、野心に燃える分家のヘンリー4世により王位を纂奪され、翌年には牢獄で餓死させられていた。王位纂奪者ヘンリー4世の息子で、1413年に王位を継いだヘンリー5世は、父親に負けぬ野心家であり、フランス国内のアルマニャック派とブルゴーニュ派の対立に乗じ、休戦中であった百年戦争を再開し、フランスへと侵略をはじめる。そして1415年、フランス軍にとって最大の敗戦が、アザンクールの戦いでもたらされる。


百年戦争が始まって以来の大敗北によって、多くのフランス人貴族は捕虜、または処刑され、主たる貴族層がほぼ壊滅してしまう。特に打撃を受けたのが、この戦いで軍を主導していたアルマニャック派であり、これにより勢力は弱体化。1418年にはブルゴーニュ公ジャンの王都奇襲によりパリを奪われ、国政はブルゴーニュ派が握るこことなってしまう。


ジャンはパリに入城した後、自らの権力の強化、さらにはイングランドとも手を結ぶべく、いくつかの婚礼を画策する。1419年にはその婚礼を実現すべく、今では狂気王と呼ぱれるシャルル6世に代わり、王太子シャルルとの会見を行う。しかし、その会見で紛糾した議論は、すぐに両派の兵士の刃傷沙汰に及んでしまい、その混乱のなか、ジャンは頭蓋骨を叩き割られ即死する。この事件は、さらなるアルマニャック派とブルゴーニュ派の対立を生み、強力な盟主を失ったブルゴーニュ派はイングランドと正式に同盟を結ぶこととなる。


そして、1420年にブルゴーニュ派を中心とするフランスとイングランドの間で「トロワ条約」が結ばれる。条約の内容により、正統な王位継承者であるはずのシャルル王太子は、次期王位より退けられ、フランス国王の座は、イングランド国王ヘンリー5世の嫡男及び、その相続人へと永久に伝わることが定められる。ヘンリー5世には、フランス王シャルル6世の娘力トリーヌか嫁ぐこととなり、この結婚により翌年出生した男子、ヘンリー6世は両国の王となる未来が約束されていた。だが、事態は急変する。1422年にヘンリー5世が若くして急死すると、後を追うようにシャルル6世も死去する。両国王を継ぐのは、生後1年にも満たないヘンリー6世のはすであったが、その幼すぎる後継者の問題に、王位から追われたはずの王太子シャルルは対抗馬として再び擁立される。

こうして正式なフランス国王が定まらぬまま、両者の対立は最終局面を迎えようとしていた。一方の勢力は、もはや有名無実の権力と、数少ない支持者しか持たないが、正統の王位継承権を御旗にした、シャルル王太子率いるアルマニャック派側。もう一方は、幼いながらも両王国の王冠を将来に約束されたヘンリー6世と、両王国での権力を得んがために協力するブルゴーニュ派の連合イングランド側。連合イングランド側は、次々とフランス国内での戦闘に勝利をおさめていく。戦争最初期にドーバー海峡で行われた、スロイスの海戦以外の戦闘は全てフランス領土内のみで起こっており、数々の戦いや、休戦で職にあぶれ野盗化した傭兵の問題、また大流行した黒死病(ペスト)の蔓延などから、フランス国内の被害は甚大であった

百年戦争に疲弊し尽くしたフランスは、もはや終局を待つばかりと思われたが、ここに歴史に燦然と輝く英雄の登場を得ることになる

-ジャンヌ・ラ・ピュセルの物語は、ここに幕を開ける。



第2巻


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第5話

1429年2月12日
オルレアン近郊

フランス軍はイングランド軍の倍以上の兵力を参集させた強襲作戦を試みたが、その手並みと見事な連携にも掛からず、たった3人の魔法少女たちによって敗戦に追い込まれていた。

 

イングランド軍に加担する魔法少女ミヌゥは、敗軍の将となったジャンを執拗に甚振ろうとするも、ラ・イルは命辛々、なんとかジャンを連れて逃げかえるのであった。 フランス軍はたった3人の魔法少女によって、4000人以上にもなる大部隊をいとも簡単に失ってしまったのである。


-オルレアン-
フランスをほぼ南北に分断するように流れるロワール川、その中央部に位置する場所にある古来よりフランスにおける最重要地の一つで、中世フランス時代においてパリと同様か、それ以上の反映を誇る都市であった。戦略上においても重要な意味を持ち、フランス北部を支配するイングランド・ブルゴーニュ側からすると、南部に侵略するための足がかりとなる場所、南部にいる王太子側からすると、まさしく最後の砦となる場所といえた。

前年1428年6月よりイングランドの侵攻は開始され、10月にはオルレアン周辺の主要な砦はほぼ制圧。オルレアン包囲網が完成されつつあった。オルレアン防衛の指令を務めていたのは若干26際のジャン・ド・デュノワ。通称「オルレアンの私生児(バタール・ドルレアン)」

また、オルレアン救援のため、王太子シャルルははいかの騎士たちの他に傭兵部隊を派遣し、勇名高い傭兵隊長であったエディエンヌ・ド・ヴォニョル、通称「憤怒(ラ・イル)」もその中にいた。そして包囲から数か月間の間、苦しい戦いを強いられてきたオルレアン側は、当時イングランドと敵対していたスコットランドへ協力を要請。駆けつけたスコットランド軍と連合して大部隊を持っての攻勢に出る。



オルレアンを包囲するイングランド兵への補給部隊を強襲する作戦を立て、4000人以上のフランス軍、対して1500人程の護衛しか伴わない補給部隊への攻撃は、圧倒的なものとなるかと思われた。しかし―

 

タルトは王太子からの返事を待ちわびていた。一刻も早く会わねばと焦っていると、そこにヴォークルールの城主ボードリクールが尋ねてくる。

 

オルレアンが致命的な敗北を喫したのと同じ時期、タルトたちはいまだヴォークルールにいた。ボードリクールはタルトに約束したとおりシャルル王太子への面会を果たせるべく尽力し、自らの上役であるルネ・ダンジュール伯爵、そしてその義父であるロレーヌ候へタルトを取り次いでいた。

特にルネ・ダンジューはシャルル王太子の妻であるマリ・ダンジューの弟で、シャルルとは義兄弟関係にあたり、王室への強い繋がりを持つ人物であった。ヴォークルール近郊のナンシーで行われたこの面会で二人の知己を得たタルトはシノンへの招待を待つことになったのである。

 

ボードリクールによれば、シノン宮殿からようやく返事が届き、謁見の許可が出たという。だが、それとは別に、オルレアンでフランス軍が大打撃を被ったという報告も受ける。さらに奇妙なことに
フランス軍はたった3人の少女によって敗走に追い込まれたのだという。

 

1429年2月22日、ついにタルトら一行はシノンへと出発するのであった。



第6話


ヴォークルールを出発し、シノンへ向かうタルト一行は一刻も早い到着に向け、その道程を進んでいた。シノンまでの距離はおよそ600km程になるが、ロワール川を渡るまでは連合イングランドの支配地域の真っ只中を通過しなくてはならず、敵対する兵士や横行する野盗、そして現れる魔女に対処しながら進まざるを得ない厳しい強行軍となっていた。


道中、リズはタルトのソウルジェムを気遣い、できるだけ自分が率先して戦っていたが、護衛としてヴォークルールから同行してたベルトランやジャンたちにも魔女の姿が見えてることに、どこか疑念を抱いていた。

1429年3月4日
正午の金が鳴り響く中、タルト一行はシノンへ到着する。


タルトたちがシノンへ到着し、宿で謁見に備えていたころ、宮殿の玉座の間では王太子シャルルが催しを開いており、そこには多くの人々が集まっていた。シャルルは、これから『乙女(ラピュセル)』や『神の使い』と噂される少女がやってることを皆に伝えると、その噂を確かめるべく、戯れをしたいと語るのであった。

しばらくして、玉座の間にタルトとリズ、そしてキューブが入室する。
しかし、このとき玉座に座っていたのは王太子本人ではなく、ジルであった。王太子は傍からその様子を見ており、もし仮にタルトが本当に神の使いなのであれば、替え玉に惑わされる、自分を見抜けるだろうと笑うのであった。

しかし、一同の予想を裏切り、タルトは目の前に座っているのは王太子本人ではないと見抜くのであった。 「天使様も私にそう教えてくださっています」と微笑んだタルトは、あたりを見回すと、迷わず本物の王太子本人の前まで進み、そして跪くと、天使の意思で王太子を正式なフランス国王にするためにやってきたのだと告げる。

二人きりで話があると、王太子はタルトを別室へ連れて行き、そこで、本当に神の使いなのかと尋ねる。そして、タルトは数年前に天使の声を聞き、その力を授かったと答えると、魔法少女の姿に変身して見せた。

王太子はこの力のことを知っていた。かつて自分を地獄へ追いやったのもその力であったのだ。タルトの言葉を信じた王太子は、玉座の間に戻ると、皆の前で宣言する。

「この者、真の乙女。真の神の使いなり!!」

第7話

1429年4月
シノン城門前には大勢の傭兵たちで活気に満ちていた。それは神に認められた『乙女』の存在による。

王太子への謁見後、タルトは神学者や協会関係者による審理をシノンの南にあるポワティエで受ける。三週間にも及ぶ審理の後、神学者たちの下した結論はこうであった 。

この『乙女』と呼ばれる少女のうちにはいかなる悪しきものは見当たらず―
それどころか謙虚、純潔、献身、誠実、素朴といった、良きもののみを持ち合わせている

王太子に加え、神学者たちによって、真の『乙女』『神の使い』であることを追認され、更なる名声の高まりを得たタルトを旗頭に、集められた兵はこれまでとは比べ物にならない数となっていた


そして、タルトとリズの前に、ラ・イルの娘である「メリッサ・ド・ヴィニョル」と名乗る少女が現れ、従者として加わると、そこに王太子が現れ、兵たちを激励するのであった。

指揮官であるジルの出発の令を持ち、一行はオルレアン解放への進軍を開始する。

オルレアン解放作戦
進軍の予定として、まずシノンからトゥールへ移動し、ここで王太子よりタルトへ下賜された甲冑などの装備を整える。次にプロワへ移動し、食料などの補給、そしてフランス中から集められた兵士たちと終結を果たす。

ここに集まる軍勢は総勢で一万とも一万二千とも言われており、その兵力をもってオルレアンへ進軍。籠城し守備を続けけるバタールジャンと合流ののち、イングランド軍による方位を破っていくというものだった


進軍中、メリッサとタルトは次第に打ち解けていった。メリッサは、これまで父の指揮する部隊に度々従軍していたこともあり、戦場に出向くことは慣れた様子であった。

夕暮れも迫ったころ、休憩のために訪れた村でタルトたちは酷い惨状を目にする。タルトたちは魔力の気配を感じてその方向へ向かっていくと、残っていたメリッサの前にキューブが現れる。彼女は、タルトが初めて王太子に謁見したとき、給仕をしており、タルトの肩に乗ったキューブの姿を目撃していた。自分は天使とタルトに呼ばれる存在であり、力を与えた者であることを告げたキューブは、メリッサにもう一度奇跡を見せてあげると、メリッサを魔女の結果内へと誘導していった。

そのころ、結果内ではリズが先頭になって魔女と戦っていた。そのとき、メリッサをつれたキュゥべえが追いつき、メリッサも魔法少女の素質があることを告げるのであった。

魔女を引き付けて戦っていたリズであったが、魔女の攻撃がタルトたちに向いてしまう―そのとき、攻撃を庇うように立つ魔法少女が現れる。彼女はキューブに対し、魔女に襲われたこの村の状況を利用してまで『乙女』の力量を見定めようと思っていたのにと残念がった様子を見せる。

そして、自分は同一の敵を持つ者で、意思を同じにする者であると告げると、剣を出現させ、これを魔女に振るうようタルトに渡すのであった。

「クロヴィスの剣」元々は聖カトリーヌ教会で眠っていたもので、それを魔力で冶金したものであるという。そして軽く振っただけで、タルトは結界ごと魔女を切り倒してしまった。

キューブとその魔法少女は知り合いのようだった。
彼女は「どうかその道程に幸あらんことを・・・」と残すと、姿を消してしまう。

一方そのころ、オルアレン近郊のサン・ルー砦ではラピヌ、コルボー、ミヌゥの3人の魔法少女は、砦の中の人たちを徹底的に惨殺していたのだった。

第8話

1429年4月29日
オルレアン ブルゴーニュ門前
タルトたちはようやくオルアレンに立ち入っていた。軍旗掲げ、勇ましくあったその『乙女』の姿に、オルレアン兵も息を吹き返すのであった。

前年1428年10月17日から開始されたイングランドグンのオルレアン包囲作戦によって、すでに周辺の砦や要所はほぼ全てが奪取されていた。

4月28日にオルレアン市外でバタール・ジャンとの対面を果たしたタルトたちは、翌29日に。オルレアンを取り囲むイングランド軍に気づかれぬよう夜影に乗じて少数の兵と補給部隊のみで先行入城とし、増援部隊の指揮官であるジル・ド・レは一旦、機をうかがって合流を目指す

―そして5月4日
ジル・ド・レ率いる本体との合流を果たしたフランス軍は、イングランド軍との戦闘を開始する

5月4日
サン・ルー砦奪還

5月6日
サン・ジャン・ル・ブラン砦、オーギュスタン砦奪還


夜になって野営の中で休んでいたタルトの元に、メリッサがやってくる。そして、魔法少女になれば、もっとみんなの役に立てるだろうと、悩んでいることを打ち明ける。しかし、酔っていたタルトは、メリッサに抱きつき、友達を危険な目には合わせられないと泣く始末であった。

翌5月7日、トゥレール砦ではコルボーが『乙女』たちを待ちわびて待っており、フランス軍が攻め込むと、コルボーがタルト達の現れる。コルボーは自らの名を告げると、タルトたちに襲い掛かっていく。リズはタルトと対峙するが、すぐに違和感に気づくことになる。

自分の身を守る気配が全くなく、傷は魔力ですぐに回復しているものの、こんな戦い方はいつまでもできるわけがない、そう思っていたが、逆にリズのソウルジェムが急に濁っていくのであった。回復に当てた魔力を他人に押し付ける魔法であるとリズは考えたが、コルボーは、自分の魔法は攻撃、防御、治癒から普段消耗し続ける魔力まで、全てを周囲に押し付けるのだと明かす。自分のソウルジェムはただの一度もほんのわずかでさえ濁ったことはないのだと彼女は告げた。

タルトも加勢しようとするが、コルボーが連れていた魔法少女フレシュが弓でタルトを狙っていた。そのタルトを庇うかのようにメリッサの父のラ・イルであったが、コルボーは簡単に返り討ちにする。メリッサは父を助けようと駆け寄るが、フレシュの強力な弓による攻撃を防ぐため、タルトが2人の壁となって立ちふさがった。

しかし、その弓矢はタルトの体を貫き、タルトは伏せてしまうのであった。『乙女』の魔力が徐々に弱まっていくのを感じ、顔を緩ませるコルボー。だが、そのとき、一筋の光が立ち込める

「たとえ・・・この先に、どんな運命が待っていようとも・・・私も魔法少女として戦います」
魔法少女として立ち上がるメリッサの姿がそこにあったのだ―



ジャンヌとその時代 -オルレアン前夜-

以下、第2巻巻末より引用

ジャンヌ・ダルクが、その歴史において挙げた功績として特に語られる「オルレアンの解放」。後年のジャンヌ・ダルクを題材として作られたドラマや映画、演劇、小説などで、彼女の活躍の中心を成す場面であることからも、その功績の大きさがうかがえる。


そのオルレアンは、どのようにして包囲に至ったか。フランスを南北に分断する口ワール川を境に、パリを含む、北部地域のほぼ全てを支配下に置いたイングランドは、南部への侵攻を果たすべく、当時のイングランドで最も有力な武将であったソールズベリー伯を総司令官に据え、7000もの兵力を動員し、1428年6月よリオルレアンへと進軍を開始する。

パリを出発し、少ないながらも残るシャルル王太子勢力下の街や村を次々と平定しながら南下すること4ケ月、10月12日にはオルレアンに到達。ロワール川南岸へも進出して円形の包囲陣を展開し、10月17日には戦闘が開始された。当時のオルレアンは、そこを治めているはずのオルレアン公が、1415年に行われたアザンクールの戦い以来、永きに渡りイングランド側の捕虜となっており、統治者不在の状態で、留守を預かる代官ラウル・ド・ゴークールのもと、1000名に満たない守兵とオルレアンの城壁に備え付けられた大砲をもって防衛戦が行われた。

大砲はこの時代の新兵器であり、大掛かりな攻城・攻防戦で使用されたのは、この戦いが歴史上初ではないかと考えられている。オルレアンに備えられた大砲は総計72門にも及んでいたが、初期の大砲は欠点も多かった。まず、1発の石の弾丸を発射するためには準備を1時間ほど要したこと、また命中率にも難があり、爆裂しない石の弾丸では、うまく兵士に命中したところで数名、城壁などを壊すには破壊力が不足、といったコストの割には相手に対する威嚇、威圧程度の効果しかもたらさない兵器であった。

しかし、そのように使い勝手の悪い兵器であった大砲が、イングランド側に不運をもたらすこととなる。10月24日に制圧した砦からオルレアンの状況をうかがい、攻城の策を練っていた総司令官ソールズベリー伯に、オルレアンから放たれた砲弾が命中。瀕死の重傷を負ったソールズベリー伯は治療のため、近くの街へ移送されるも10日後に死亡する。以降イングランド軍の指揮は、ウィリアム・ドウ・ラ・ポールを中心として、他にジョン・タルボットなどの武将を置いた集団指導体制となる。

翌10月25日にはオルレアンに増援が到着、その中には、「オルレアンの私生児」バタール・ジャン、「憤怒」ラ・イルなどがいた。中でもバタール・ジャンはその異名の通り、本来この場所を治めるオルレアン公の異母弟であって、捕虜となっている兄の代わりを果たすべく、オルレアン防衛の総指揮を担うこととなる。攻防戦は補給物資に乏しいフランス軍が苦しみながらも、一応の膠着状態を見せ、そのまま年明けを迎える。翌1429年2月10日、そのような状況の中で、ひとつの情報がフランス軍にもたらされた。『パリを発ったイングランドの補給部隊が南下しつつあり、護衛は少数である』というもので、これを好機と見たバタール・ジャンは、スコットランド軍に協力を要請。2月12日に補給部隊に対しての強襲作戦を決行する。

そうして、本編第5話にあるように、オルレアン近郊、ルヴレと呼ばれる街の周辺での戦闘が行われたが、数で圧倒的に勝るはずのフランス・スコットランド連合軍は大惨敗を喫することとなる。多くの武将が戦死し、総司令官であるバタール・ジャンも足を射られ、どうにか撤退を図るという有り様だった。原因は、スコットランド軍との連携が全く上手くいかなかったこととも、寡兵であっても強力なイングランドの長弓部隊に対し、全く対処ができなかったこととも言われている。

戦場には、イングランドの補給部隊が運んでいた樽からこぼれた塩漬けのニシンが大量に散乱していたため、この戦闘は『ニシンの戦い』と呼ばれることとなった。この敗北により、イングランド軍は勢いを増し、一層包囲網を強めていく。対してオルレアン側はさらに悪化した補給事情や総司令官の負傷といった問題を抱えラ・イルはこの事態を打開すべく、王太子の宮廷があるシノンを何度も往復し、資金や増援の要請に奔走する。しかし、もとより資金力や権勢が不足するフランス側においては、ラ・イルの要請も思うように実らず、オルレアン攻防の大勢は決し、陥落も時間の問題となっていた。

以上が、オルレアン包囲に至るまでの経緯である。

―そして、絶望に嘆くフランスに、一つの噂は巡る。

<<神より遣わされた『乙女』が、フランスを救うためにやってくる》―と。

第3巻


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第9話

地に伏せるタルトと父を前に、メリッサは声を荒げる。そこにタイミングを見計らったかのようにキューブが現れ、無理強いをすることはできないが、この場で二人を救えるのはメリッサしかいないのだと、魔法少女になることを勧めるのであった。

ラ・イルは走馬灯のように思い出していた。
かつて、傭兵家業を始めようとしていたころ、ミレーヌという女性と喧嘩別れになってしまったこと。そしてその町を出て数年ぶりに帰ると、ミレーヌは流行り病で死んでおり、その娘、メリッサだけが生き残り、教会に引き取られていたこと。そして、その子が自分の娘であると分かり、自分が父親であると明かした日のことを―

そして薄れる意識の中、彼が見たのは『乙女』と同じ姿をした娘の姿であった。タルトが目覚めると同時にラ・イルは意識を失ってしまった。キューブは、急な回復に意識が付いていかなかっただけだろうと言うと、メリッサの願いにより、タルトやラ・イルの負傷は消え去ったのだと続けた。

メリッサは魔法少女となり、その力でリズに加勢する。タルトが復活したことに気づいたコルボーは、楽しみが戻ってきたと喜ぶと、キューブの姿を見つける。しかし、コルボーはキューブの姿を見ても、それが何者なのか分からない様子であった。魔法少女でありながらキューブのことを知らないというコルボーを不思議に思うリズだったが、再びコルボーに攻撃を仕掛けていく。そして、コルボーの能力は多くても40オーヌ(約48メートル)程度しか有効でないことを見抜くのであった。



第10話

リズは防戦一方なふりをしながら、タルト、リズを能力で影に潜ませおり、そしてタルトをフレシュの元へ飛ばし、メリッサとともにコルボーを挟んでいく。フレシュに一人立ち向かうタルトであったが、復活したタルトの魔力はより強力になっており、攻撃をもろともしないほどになっていた。

キューブは、死の運命を捻じ曲げ、さらに強力な因果を背負ったことによるものであると考えた。しかし、通常はその程度で強化されることはなく、もしかするとタルトがここで死に、メリッサにより復活することすらもタルトの願いにより運命付けられていたのかもしれないとした。

フレシュは魔力を使い切るつもりの全力の攻撃をしようとしていた。そのとき、タルトは「今、最も信じられる武器を」とイメージし、自身が先頭にたって振る旗を思い浮かべると、自分の背丈の何倍もある旗槍を創り出し、そこから放たれた光はフレシュを砦の一部ごと吹き飛ばしたのである。

その様子を見ていたコルボーは、さすがにあの技を喰らったらひとたまりもないと、リズたちに接近してくる。しかし2人がかりとなったリズとメリッサはコルボーを圧倒し始めるのであった。ダメージを受けても、その分自分たちに跳ね返るのだとコルボーは余裕を見せていたが、驚くことにコルボーのソウルジェムは濁り始める。

メリッサとリズは、自分たちのソウルジェムをタルトに渡し、コルボーの能力が及ぶ外側(約50メートル以上)かつ、ソウルジェムが問題ない程度(約100メートル以内)にタルト離れさせており、これによりコルボーの能力を封じていたのである。

初めてジェムを穢されたことに、快楽さえ感じたコルボーは奥の手を出そうとするが、そこにミヌゥが現れ、これを制止し、そしてコルボーを連れ、魔女を残して去ってしまうのであった。

そこにはさきほどタルトが倒したと思っていたフレシュが魔女となって空を漂っていた。魔女はオルレアンを直接狙おうとしていたが、タルトは飛び出してこれを両断する。タルトは気づいていた。魔女を倒した瞬間、自分以外にも魔女を攻撃をした存在がいたことを。

はるか高台から魔女を狙撃したのは「エリザ」という魔法少女であった―。

第11話


神聖ローマ帝国
ドイツ王国、イタリア王国北部、ボヘミア王国、また広大な貴族領、教会領などからなる連邦国家であり、西ヨーロッパ大陸で最大の勢力と言える大帝国である。フランス王国と同じく、その源流はフランク王国であり、西暦843年にフランク王国が西、中部、東の三国に分裂した後、西フランクがフランス王国に、中部フランクがイタリア王国に、東フランクがドイツ王国となるこのドイツ王国が、後に神聖ローマ帝国の中心となっていった

ドラゴン騎士団
1429年当時の神聖ローマ帝国皇帝はジギスムント、ボヘミア王、ハンガリー王をも兼ねる人物であった。ジギスムントとその妃バルバラ・ツェリカが1408年に創設したのがドラゴン騎士団で、その目的はヨーロッパにおけるキリスト教世界の守護とされ、主にイスラム王朝であるオスマン帝国との戦いに備えるものであった。

騎士団にはジギスムントのお膝元であるハンガリー王国の大貴族や、他国の有力者を中心としたメンバーが集められた。余談ではあるが、吸血鬼ドラキュラのモデルとなった「串刺公」ことワラキア公ヴラド・ツェペシュも後にドラゴン騎士団員となっている。


1429年5月8日
オルアレン郊外
トゥーレル砦奪還の翌日、ついに形勢を逆転させたフランス軍と劣勢に落ちたイングランド軍は、互いに総力を結集し、正面より対峙していた


フランス軍とイングランド軍が正面で対峙していると、イングランド軍司令のジョン・タルボットは、フランス側の総司令バタールとの会談を提案してくるのであった。『乙女』の同席を望んだタルボットに、バタールもこれを了承した。

すると、タルボットは『乙女』に対抗する戦力がないこと、今日が安息日(*キリスト教などの教義で何もしてはいけないと定めた日)であることも引き合いに出し、負けを認めて休戦を申し出てくるのであった。

これにより、オルレアンの解放は実現し、フランス軍の勝利が決まった。

こうして7ヶ月に及びイングランド軍に包囲されたオルレアンは『乙女』到着後、わずか一週間の先頭で解放された。歓喜に沸く人々の中心にはこの奇跡の解放をもたらした少女の姿があった―。そしてその名声はフランス中への希望の光として伝わっていく

この奇跡を讃える詩が、同時代の女流詩人によって残されている

『1429年 太陽は再び輝き始めた』
クリスティーヌ・ド・ピザン「ジャンヌ・ダルク讃歌」の一節


オルレアンの人々は夜になってもその喜びで賑わいがやむことはなく、祭りのようにはしゃいでいた。そしてリズはメリッサに、タルトを救ってくれたことに感謝を伝えたのである。

1429年5月9日
オルレアン解放の翌日、まだ歓喜も冷めやらぬ中で、タルトたちはオルレアンを出発し、王太子シャルルの元へと向かう
そうして5月11日には謁見のあったシノンより50kmほど東にあるロッシュの街でシャルルとの再会を果たそうとしていた


ロッシュの街に着くと、王太子自ら『乙女』を出迎え、膝を突くとタルトの手を取るとその甲に口付けを行った。(ヨーロッパの風習で最大限の感謝を表す)オルレアンでのことを報告しようとしていたタルトであったが、王太子は横にいた少女からすでに報告を受けたのだという。

彼女は自らを、ドラゴン騎士団のひとり、エリザ・ツェリスカであると名乗った。そして、オルアレンでの魔女との戦いの際、狙撃でタルトを手助けしたのも自分であると告げるのであった。 同じくドラゴン騎士団であるオスヴァルトとエリザは、王太子に会いにきた理由を語りだす。

自分たち神聖ローマ帝国にも『乙女』の噂が届いており、そして彼女は王太子シャルルがランスでフランス王に戴冠するために現れた『神の使い』であると―
そしてドラゴン騎士団には『乙女』を見定め、本物であれば神が見定めた正統の後継者たるシャルル殿下に助力するようにと命令が下っており、オルレアンで『乙女』の力を見た自分たちは、シェルル殿下の戴冠の一助となるべく、ランスまでに道のりを任せてほしい―

その心強い申し出に喜ぶ一同であったが、侍従長であるラ・トレモイユだけはこれに異議を唱えた。フス戦争を引き合いに、さほどの助力も見込めないだろうというラ・トレモイユに対し、オスヴァルトはすでにリッシュモン元帥に動いてもらっており、数千の兵もすぐに参集が可能だと告げる。

だが、侍従長は自分の立場が不利と見るや、ほかの家臣たちとも一度宮廷で会議をすべきと、強引に場を仕切り直すのであった。ドラゴン騎士団の助力は、フランス軍にとって決して不利に働くはずはないと考えるオスヴァルトは疑念を抱いた。

第12話

エリザはタルトの力を見たいと、街から少し離れた場所で手合せをすることとなった。仲間達が見守る中、エリザはタルトをねじ伏せると、彼女のことをを噂以下の『乙女』さんと皮肉を言うのであった。

その様子にメリッサは怒りに我を忘れながら、自分も手合せを願うと、エリザをつかんだと思いきや、ひと投げではるか遠方まで投げ飛ばしてしまうのであった。父のラ・イルによれば、本気で怒ったメリッサは誰も止められないという。それを見ていたリズは呆れるのであった。

それからしばらくして、エリザは醜態をさらしたことに屈辱を感じながらベッドに伏せていたが、そこにメリッサが現れ、怒りに身を任せてしまい無礼を働いたことを謝罪した。

その頃、ロッシュ城の大広間では、一刻も早くランスへ向かい、王太子シェルルの戴冠を望むタルトたちと、そうはさせたくない侍従長とが意見を対立させていた。しかし宮廷の実権を握っている侍従長に、王太子でさえ強くはでれず、意見が押し切られようとしていた。

だが、そんな時、王太子の長男ルイが広間に入ってくる。彼は『乙女』に会いたかったのだというと、オルレアンでの勝利へ感謝を述べるのであった。その様子を見ていた王太子は、ランス行きを決意する。

『乙女』の導きによって王に戴冠すること、フランスに平和をもたらすことを―

公式な記録において、後のフランス国王ルイ11世は、ロッシュで出会ったジャンヌ・ダルクを一生と通じて思い出としており、ジャンヌ・ダルクが火刑に処された後も感謝の意を隠さなかった唯一の王族であった

ルイ11世は、当時はありふれた名前だったとはいえ、後に生まれた娘のうち2人に「ジャンヌ」の名を付けている


こうしてランスに向かって進軍することが決定したフランス軍
この一連の軍事行動は「ロワール作戦」と名付けられることとなった。作戦指揮を執るのはアランソン公。タルトはその副官として抜擢される

王太子の号令と『乙女』の名のもとに集まった兵士たちはランスに向かって侵攻するため、ロワール川流域とその周辺のイングランド軍を追い立てていく。

ジャルジョー、マン、ボージャンシーと勝利を重ねていくフランス軍であったが、この「ロワール作戦」において最も大規模な戦いが次に待ち構えていた。


1429年6月18日
パテー
タルトたちはイングランド側の3人の魔法少女たちと対峙していた。互いに様子をうかがっていると、ラプヌが突然一人で飛び出すと、タルトたちは連携し、簡単に打ち倒すのであった。しかし、ラピヌは魔女化してしまうのであった。彼女が魔女化すると、周囲の武器はその魔女に引き寄せられていくのであった。

ジャンヌとその時代 -オルレアン解放 その後-

以下、第3巻巻末より引用

1429年5月8日―
7カ月に渡り包囲が続き、陥落寸前であったオルレアンを、到着からわずか1週間で解放した、奇跡の『乙女』。その勝利にオルレアン市民たちは大いに沸き立ち、この日と翌日に渡り勝利を祝うパレードが行われた。この時よりおよそ6世紀経過した今も、毎年4月29日から5月8日にかけて、オルレアンでは「ジャンヌ・ダルク祭」が開催されるほど『乙女』に対する感謝の念は、脈々と続いている。

オルレアン解放がフランス王国内にもたらした衝撃は大きく、その報が各地に伝わるなか、イングランド勢力下にあるパリで報を聞いた、高等法院(裁判所)書記のクレマン・ド・フォーカンベルグは、勤務日誌内に以下のように記している。

「5月10日火曜、公表された連絡によると、シャルル王太子軍はオルレアンにおいて、イングランド王の差し向けし将兵が守備する要塞を奪取したという。その軍勢の中には、旗を掲げて戦闘を交える娘がいたとのことである」注目すべきは文章ではなく、日記余白に描かれたーつの絵で、落書きとも言えるようなものであったが、この絵こそが『乙女』が生きた同時代内において唯一描かれたジャンヌ・ダルク像である。

オルレアン解放の奇跡をもたらした『乙女』はその後、シャルル王太子の元を訪れる。年代記によるとロッシュ城門前で『乙女」を出迎えたシャルルは衆目が見守るなか、跪く『乙女』を自ら抱き起こし接吻を与えたとのことであった。最大級の謝意を表した行動とも言えたが、今や『乙女』は功績においてもシャルル宮廷内で抜きん出た存在へとなりつつあり、『乙女』を核に、戦友として、また信仰・信奉の対象としてジル・ド・レ、バタール・ジャン、ラ・イルといった有力な武将が支持者として存在していることは、それが彼女の意志とは関わりないことであったとはいえ宮廷内の主流派である侍従長ラ・トレモイユらにとっては政治的な脅威であった。

オルレアンの危機が去った今、次なる目標としてランスへと進軍することは『乙女』にとって、王太子を国王へと戴冠させるという、当初より望んでいた当然の主張であったが、ラ・トレモイユは公然とそれに異を唱え、イングランド・ブルゴーニュ連合への交渉を働きかけるという消極策や、進軍をするにしてもフランス北西部ノルマンディーを目標とした、『乙女』側と真っ向から対立する指針を打ち出す。王家の財政は日々の戦費などによって貧窮しており、ラ・トレモイユからの借入金によって宮廷運営費などはまかなわれていた。そのためにラ・トレモイユに対しては王太子本人であっても容易には反論が許されない状況ではあったが、運命は『乙女』の意志に味方していた。

 

第一に、成功を収めたオルレアン解放戦は、ラ・トレモイユと宮廷内で対立する王太子の義母ヨランダ・ダラゴンの私財による戦費投入によって成り立っていたこと。第二に、オルレアンを撤退したイングランド軍は、ジョン・タルボットらの賢明な指揮により主力を大幅に欠いたわけではなく、その勢力のほとんどが温存され、未だ6000を超える兵力が、オルレアンからそう遠くない距離に拠って、反撃の機会を伺っていたこと。そして第三に、今後の目標を定めるために開かれた会議の場で行われた『乙女』による直訴。

今や奇跡をもたらす少女の進言は、もはや啓示に近い意味を帯びてきており、ラ・トレモイユ派閥の近習たちにとっても無視はできないものとなっていたこと。これらの要因が絡み合い、ラ・トレモイユの意見は退けられ『乙女』の望む通り、ランスへの進軍案が採用される。そのためには前述のとおり、反撃の機会を伺うイングランド軍の掃討が必要不可欠であり、かくして「口ワール作戦」と名付けられた口ワール川近辺における戦いが始まる。


時流に乗るフランス軍の勢いは止まることはなく、口ワール川流域のジャルジョー、マン、ボージャンシーと、イングランド軍が駐留する各砦などを取り戻し順調な勝利を重ねていく。しかし、イングランド軍は各地より撤退させた勢力を整然と取りまとめ、パテーの街道近くに戦力を集結させる。フランス軍もこれを追尾し、ついに両軍は総力で対峙する。

こうして大規模な野戦「パテーの戦い」が開かれことになるが「野戦での勝利」これはフランス軍にとっては鬼門ともいえるものであった。オルレアンの戦いや、ロワール作戦におけるジャルジョーなどでの戦いは、いわば防衛戦や攻砦戦下の勝利であり、1415年のアザンクールの戦い以来、野戦においては敗北を重ね続けてきたフランス軍。「パテーの戦い」は今後のフランス軍の行方を決定づける戦いになろうとしていた―

第4巻


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第13話

タルトたちはラピヌを倒したと思ったが、次の瞬間、ラピヌは魔女化し、周囲の兵士たちが持つ武器が吸い寄せれていく。魔女ラピヌは、集めた武器を固め、攻撃を仕掛けてくる。リズはメリッサと影の中へ逃げようと試みたが、一瞬閃光が走ったかと思うと、2人の魔法少女化が解けてしまう。

タルトが二人の前に立ち、攻撃を薙ぎ払うと、なぜか2人の変身はまた戻るのであった。理由は不明だが、エリザとタルトの武器だけは影響を受けないようで、彼女たちが魔女を相手にしていると、今度はコルボーがメリッサとリザを襲ってくる。


武器を魔女に奪われ、素手となった2人であるが、能力を使い、見事な連携でコルボーを返り討ちにする。しかし、首を捻じり倒したところでやはりコルボーが死ぬことは無かった。

一方、ラピヌと戦うエリザは、マントにある気味の悪い目に見られると魔法少女の変身が解かれると見抜くが、タルトとの連携がうまくいかずに苦戦を強いられていたが、最後にタルトが魔女に突っ込み。それをエリザが援護することで魔女を貫くことに成功する。

しかし、目の前には信じられない姿があった。倒した魔女が魔法少女の姿に戻っていたのである。(普通であれば抜け殻となった体を残し、魔女が生まれるはずが、体を残さずに魔女になっていた)

ミヌゥはラピヌを回収すると、コルボーの指示で帰還することに。そしてコルボーは「アレを使う」と言い、タルトたちに向かっていくのであった。

第14話

Ring-a-Ring-o'Roses
(バラの花輪だ 手を繋ごうよ)
A pocket full og posies
(ポケットに花束さして)
A-sishoo!A-tishoo!
(ハクション!ハクション!)
We all fall down.
(みーんな転ぼう)
マザーグース 『Ring-a-Ring-o'Roses』

残ったコルボーに、ミヌゥのことを尋ねるも、コルボーが教えることは無かった。一方イングランド軍は武器を失ったフランス軍に襲い掛かろうとしていた。

コルボーが不敵な笑みを浮かべると、
『La Danse Macabre (死の舞踏)』
と叫び、辺り一面に黒い羽根を降り注がせる。

羽根に当られた人々は苦しみ、地面に蹲ってしまう。リズやオスヴァルトはこれが黒死病
(ペスト)であると理解するも、皆は意識を保つのさえやっとのほどであり、コルボーはメリッサやリズたちを蹂躙していく。

ペストは主にネズミを媒介として観戦する伝染病で、感染すると数日、早くて数時間の潜伏期間を置いて発症する。症状として多く見られる特徴が敗血症で、手足の壊死や体中に出血斑を引き起こして、昏睡したまま全身が黒いアザまみれとなって死亡することから『黒死病』と呼ばれる。

14世紀の大流行期には、わずか50年の間に全ヨーロッパ人口の30%にあたる2000万人~3000万人が死亡したと推定され、中世において最も恐れられた病であった。


タルトは喉元をコルボーに捕まれながらも、味方であるはずのイングランド軍さえ巻き込むことを批難するも、コルボーは気も留めない。すると、その時、天から一筋の光が立ち込める。その光はコルボーの魔法を打ち払っていく。フランス軍もイングランド軍も、目の前の奇跡に、ただ驚嘆するのみであった。


コルボーはタルトに追い詰められていくが、その時、自分の妹たちを心配するコルボーの元にミヌゥが突如現れる。今回ばかりは助かったと安堵した様子を見せたコルボーであったが、ミヌゥはコルボーのソウルジェムを奪うと、「あなたはもういらない」と言い、あろうことか砕いてしまう。

平気で自分の姉を殺すミヌゥに怒りを露わにするタルトであったが、ミヌゥはコルボーの遺体を回収すると姿を晦ましてしまった。


第15話

その頃、フランス軍を攻めていたイングランド軍ではあったが、コルボーの無差別な攻撃によって受けた病を、フランス側であるタルトが敵味方関係なく救っていたこともあり、士気は上がらず、フランス軍の優勢となっていた。

そこにリッシュモン元帥率いる大軍が加勢したこともあり、タルボットは負けを認め、降伏し、自らがフランス軍の捕虜となることにも合意したのであった。

こうしてパテーの戦いは終結する。一説によるとイングランド軍2500名の死傷者に対し、フランス軍は3名の死者しかださなかった(実際には100-200名と想定されている)とも言われるほどの大勝利であり、フランスは目標であった王太子戴冠の地、ランスへの道のりを確実なものにしようとしていた。


鬨の声を聞いたタルトらはフランス軍の勝利を知ることになる。するとそこに、以前、オルレアンへの道程で出会い、タルトに「クロヴィスの剣」を授けたあの魔法少女が現れる。

彼女は、自分を魔法少女であり、錬金術士でもある「ペレネル・フラメル」と名乗った。今回の戦いで、ミヌゥの魔法でもタルトとエリザの武器を奪われなかったのは、ペレネルが渡した、魔術的な細工を施したものだったことが幸いしたようであった。

『フランスはひとりの女によって滅び、ひとりの少女によって救われる』
古くからのフランスにおける民間伝承の予言であるというペレネルは、『乙女』の存在によってまさに予言は成就されようとしていると続ける。

その後、ペレネルはタルトの決意を聞くと、この大きな運命の因果の流れの中心はタルトにあることを忘れないよう告げ、彼女は立ち去っていく。

抽象的なことを並べるペレネルに、どこか胡散臭さを感じずにいられないエリザに対し、リズはペレネルの言っていた予言に思いを馳せていた

パテーの戦いでの勝利の影響は大きく、イングランドの影響下にあったオーセール、トロワ、シャロンなどの街も次々に王太子側への恭順を示し、ランスへの道程を阻むことはなくなっていた。

こうして1429年7月16日、タルトたちはついにランスへ入場を果たす。


ランス
そして7月17日 日曜日。シャルル王太子の戴冠式は行われる。

古来より戴冠の聖別式は日曜日に行われることが定められており、翌週へと先延ばしする余裕もなく行われた挙式であった。

式場であるノートルダム大聖堂も改装中といったありさまで、改装部は布で覆われたままであったという。しかしランスの市民たちは聖別士気を熱狂と歓喜とともに迎え入れていた。


「ノエル(万歳)」と歓声が響く中、こうして名実ともにシャルル7世王が誕生する。ここに『乙女』、そしてフランス国民が望み続けた、正統なる王の戴冠が実現したのである。

その夜―
即位したシャルルやタルトらは一同に会し、歓喜に沸いていた。だが、突如城の中の灯りが消え、どこからともなく悲鳴が上がり始める。タルトたちが様子をうかがうと、人々が炎に包まれていた。

そして、シャルルは目の前の女に腰を抜かし、震え上がる。それはシェルルの母親であり、フランスを滅ぼそうとした女、「売国妃 イザボー・ド・バヴィエール」その人であった。


第16話

シャルルは震えあがりながらも、タルトにイザボーを殺してくれと命じる。しかし、飛びかかったタルトたちの攻撃はイザボーに全く効いている様子を見せない。変身すらしていないにも掛からず、余裕を見せるイザボーに、タルトはありったけの魔力を込めて攻撃する。だがやはりイザボーを傷つけることはできなない。

その様子に、シャルルは涙を流しながら命乞いを始める。だがイザボーと共にいたミヌゥは彼に、その言葉を伝えるのであった。

『一年の後、『乙女』に死を賜わさんことを』

絶望の始まりをどう足掻くか、楽しませてもらうとミヌゥは言い残し、イザボーと共に姿を消してしまうのであった。

何もできなかったタルトたちだが、家臣らは次に起こす行動を考えていた。タルトは、シャルルが王権を取り戻した今こそ、パリに向かい、首都を奪還すべきだという。しかし、、『乙女』であっても全くイザボーの相手にもならなかったことに、シャルルは乱心してしまうのであった。

一刻も早いパリ奪還を次の目標とするタルトたちであったが、憔悴した国王シャルルのもと、ラ・トレモイユは、連合イングランド軍に休戦を申し入れる。

徹底した引き延ばしの結果、翌8月までランス出発を待つこととなったフランス軍であったが、ようやく一路パリを目指し進軍を開始する。

『乙女!!』『乙女!!』と歓声が上がる中、軍旗を掲げたタルトを先頭に、一行はパリを目指し旅立とうとしていた。そこに現れたキューブはタルトに、キューブの言葉を実現させ、本当に王を誕生させたことを賞賛するのであった。そして、キューブは告げる。

これからパリに向かおうとしているタルトたちではあるが、そこにイザボーはいないのだと。さらにキューブでさえ、その居場所は正確には分からないが、彼女はフランス全土にグリーフシードをばら撒き、孵化させようとしていること、そしてそれは今に始まったことではなく、かつてタルトたちが戦った魔女も彼女によって引き起こされていたのだということを語るのであった。

くしくも前国王と同じように心を病むこととなった新国王シャルル。
1429年8月以降も、やはりシャルルの心は回復する兆しを見せなかった。それどころか、ようやく9月8日にパリ奪還の戦闘開始命令を出したかと思えば、その2日後には攻撃中止命令を行い、その後、9月21日には 軍組織自体に解散命令を出すなど、王の乱心は徐々に激しいものとなっていく

ついには『乙女』を戦友として慕うアランソン、ライル、ジル・ド・レ、バタールたちも軍の解散とともにフランス北方への転戦や自領へ戻されるなど、徹底的な『乙女』との分断が行われることとなった。

それからおよそ8ヵ月の間、タルトたちは半ば独断でフランス各地を転戦していくことになる。今まで共に戦ってきた戦友の支援も、王からの賛美もない孤独な戦いであったが、それは天使の命を受けた『乙女』の決意の戦いであり、タルトたちは決して怯むことなく進み続けた。

そしてその永き戦いの果てに、運命はある場所へと『乙女』たちを導こうとしていたのであった。

1430年5月
フランス北部 コンピエーニュ
ちょうどパリとランスの中間に位置する要塞地でもあるこの都市は、シャルルの即今では連合イングランドの支配下にあったが、その後フランス王国の支配下へと戻っていた。しかし、弱腰な外交を続けるシャルルの隙をつき、連合イングランド軍が再び進行を開始する。

コンピエーニュ救援に向かう『乙女』は、王国軍としての正式な地位も与えられず、一介の傭兵とも言えぬ扱いのままこの戦いに参加するのであった。


コンピエーニュに辿り着いたタルトたちは、ようやくここでミヌゥを見つけることになる。大勢の魔法少女がタルトたちを囲むと、ミヌゥは彼女たちを一斉に魔女化させるのであった。

ミヌゥは告げる、あの方が告げた刻限である―と
「一年の後、『乙女』に死を賜わさんことを―」

ジャンヌとその時代-補遺-

以下、第4巻巻末より引用

■パテーの戦い

数々の演劇や映画において描かれる、ジャンヌ・ダルクの物語。その作中では、歴史上において、1429年5月8日に成し遂げられた、オルレアン奪還こそが最大の戦功として描かれるのが常である。しかし、単純な戦果という点では、6月18日のパテーの戦いでの勝利こそが『乙女』最大の戦功として記憶されるべき、最重要のものであると言える。

この戦いの軌跡も、史実において大変興味深いものであり、森がまばらに点在するパテーの平原で対時したフランス、イングランド両軍であったが、その戦端は、ある動物によって開かれたという。森から突然飛び出して来た、鹿とも兎とも言われる1頭の動物が、イングランド軍の隊列の中に飛び込み、混乱を巻き起こし、それを好機と見たフランス軍が強襲を掛けたのであった。混乱したイングランド軍は、事態の収拾に追われるが、完全に戦いの主導権はフランス軍のものだった。それを主に指揮したのは、アルチュール・ド・リッシュモン元帥であったが、ここにもまた複雑な事情が介存する。

彼はまさに百戦錬磨の軍人で、また政治家としても謹厳で有能な人物であったが、それゆえに、フランス宮廷内で権勢を振るいたいラ・トレモイユにとっては邪魔な存在であり、その地位を完全に追われていた。王太子シャルルに対しても助力することを禁じられ、オルレアン、パテーをはじめとして、一連の戦闘にも参加することを許されてはいなかったが、彼はそれを押してパテーの戦いへと参陣したのであった。かくして、こと戦闘においては常勝と言っていいほどの戦上手であったリッシュモンの巧みな指揮により、大いなる勝利をフランス軍は得るのであった。

『乙女』とリッシュモンは、この戦いが最初で最後の共闘となるが、『乙女』の印象や戦いぶリをリッシュモンは、後にこう述懐している。「真に信頼すべき少女であり、彼女とともに戦えるのであれば、ラ・トレモイユに頭を下げることすらいとわないと感じた。戦闘においても『乙女』は、とても少女とは思えぬ戦いぶりで、特に砲の使い方が非常に巧みであったことを覚えている」


■黒死病と伝承

童謡14話冒頭において、引用されたマザーグースの『Ring-a-Ring-o'Roses』。マザーグース研究者によれば、この童謡は『5月祭』と言われる、ヨーロッパ各地で行われる祭の際に、子供たちが飾られたバラの花束の前で踊る時に歌われたものだという。

Ring-a-Ring-o'Roses
(バラの花輪だ 手を繋ごうよ)
A pocket full og posies
(ポケットに花束さして)
A-sishoo!A-tishoo!
(ハクション!ハクション!)
We all fall down.
(みーんな転ぼう)


しかし、この歌詞について、マザーグース発祥の地イギリスでは、黒死病(ペスト)を歌ったものであるという説が広く信じられている。『バラの花輪』は、ペストの初期症状で体中にできる内出血や発疹。『花束さして』は、予防や治療のために使われていた薬草の束。『ハクション!』は、ペストが肺に回ってしまった末期症状の際に止まらなくなる咳。『みーんな転ぼう』は、そしてみんなは死んでしまう。といった意味になるという。

ちなみに、上記の『5月祭』は、5月1日に行われる豊穣祭であるが、その前日の日没から未明にかけて開かれる前夜祭のことを『ワルプルギスの夜』という。


■ランス大聖堂 戴冠式
急な日程ながらも、盛大に行われたシャルルの戴冠式には、幾人かが不参列となっている。代表的なのが、シャルル王太子妃マリ・ダンジューと、息子ルイで、当然、シャルル戴冠後には新たに王妃、王太子となる二人ではあったが、ランスまでの道のりでの危険を考え、戴冠式には参列していない。これは、ある意味で納得できる対応であったと言えるが、一方で、リッシュモン元帥は参列を望みながらも、それを許されることはなかった。

リッシュモンの参列には『乙女』や、その周辺の武将たちからの、熱烈な懇願がなされてはいたものの、ラ・トレモイユを中心とする宮廷側がそれを認めることはなく、本来、元帥であるリッシュモンには、式典において王の剣を捧げ持つという、栄誉ある役割が課せられるはずであったが、不参列となった彼の代役として実際の戴冠式で剣を捧げ持っていたのは、ダルブレという、ラ・トレモイユの腹違いの弟であり、この一連の措置は、対立の根深さを感じさせるものであった。

しかしながら、この戴冠式は『乙女』が目標とし、望んだ最たるものであって、式の様子を書き記した貴族によると、「シャルル様の頭上に王冠が置かれた時に、全ての参列者がノ工ル(万歳)を叫び、その声と鳴り響くラッパの音で、聖堂の天井が崩れ落ちるかと思えるほどだった。儀式の間『乙女』は王のかたわらに立ち尽くし、手には彼女の軍旗を捧げ持っていた、王となられたシャルル様と『乙女』の見事な振る舞いは実に素晴らしく、参列者の感動は、いかばかリだったであろうか」

オルレアンを皮切りに、『乙女』が積み重ね続けた奇跡は、この戴冠式をもって最大の結実を見せたのであった。


■イザボー・ド・バヴィエール
フランスの歴史上において、最も高名な女性はジャンヌ・ダルクであるが、イザボーはその対極として、最も悪名高き女性である。正式な名は、フランス語読みで「エリザベート・ド・バヴィエール」となり「イザボー」という呼び名は蔑称であるとの説もあるが、彼女がフランス王妃として嫁いだ際、義妹になる人物に、同名のエリザベートがいたことから、差別化のために「イザボー」と呼ばせていたものであることが窺える。(実際、自身の署名は「Ysabel」と綴ったこと、また蔑称の意味合いが史書から読み取れるのは15世紀以降になる)

曽祖父に神聖ローマ皇帝を持ち、家柄においてはヨーロッパでも指折リの名門であリ、幼いころからの英才教育のため、ラテン語などにも堪能で、知識や美貌を兼ね備えた、フランス王妃に、これほど相応しい人物はいなかったはずであったが、その身に備えた野心は、フランス王妃で収まることを許さず、フランス王国、そしてヨーロッパは一人の女の思惑の中に落ちようとしていた。


■シャルル7世
戴冠以後、国王シャルル7世は、人格が変質したかのような振る舞いを見せるようになったという。元々、小心な人物ではあったものの、時には王族としての気概を覗かせていたシャルルだったが、その気概は完全に鳴りを潜める。ある年代記作者は王となったシャルルについて、3つの欠点を書き記している。「移り気であること、猪疑心の強さ、そしてその上をいく嫉妬心」この国王の変質が、これから先『乙女』にとって、どのような運命をもたらすことになるのか―




第5巻


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第17話

タルトたちは大量の魔女に囲まれていた。魔力の消費が狙いと見たリズは、タルトになるべく大技は使わせないように魔女を削っていく。そこに、コルボーの仇討にとラピヌが参戦してくる。リズはこれを一人で受け、殺したのは自分たちではなく、あのミヌゥだと告げると、ラピヌはまた魔女化するのであった。

メリッサが加勢し、武器を取り返して魔女を消滅させるが、やはりラピヌは元の姿に戻るだけで倒すことはできない。すると、メリッサとエリザはミヌゥによって別の場所へ飛ばされてしまうのであった。

早く合流をと焦るメリッサとエリザに、ミヌゥは大量の魔女を当ててこれを阻む。一方、取り残されたリズとタルトはラピヌに追い込まれていた。だが、絶対にタルトを絶望させないと誓うリズは、最期の攻撃を仕掛けようとしていたのである。

第18話

リズのソウルジェムが輝きだすと、彼女はこれまでの仲間を思い出していた。何人もの魔法少女と共に戦ってきた、だが、彼女の探していた「希望」ではなく、無残に散っていった―。

―我を過ぐれば憂いの市あり―
―我を過ぐれば永遠の嘆きあり―
―我を過ぐれば滅亡の民あり―
―正義は尊き我が創造主を動かしたり―
―我を造りしは聖なる力―
―至高なる智慧、そして至上の愛―
―永遠のほか、我より先に造られしものはなし―
―しかして我は永遠に続く―
―汝ら、この門をくぐる者は一切の望みを棄てよ―

リズは自身の影の能力でタルトを縛り付けると、魔法で召喚した地獄の門を開くのであった。その門から無数に伸びる黒い腕は、周囲の魔女やミヌゥを掴み、門の中へ誘おうとする。何度倒されたところで関係ないと叫ぶミヌゥに、リズは倒すことはしないと言う。

リズは告げる。この門は影の牢獄へ続いており、自分とミヌゥはそこに永遠に閉じ込められるのだと。困惑するタルトだが、決意を固めたリズは優しく微笑む。

「泣かないで、タルト」
―これからも私の魂はあなたとあり続ける

そしてリズはミヌゥを連れ門の中に消えてしまった。リズを失ったことで跪き、失意の底に陥るタルト。エリザとメリッサが奮闘していたころ、彼女は魔女の結界が消えると、そこに居合わせた連合イングランド軍の兵たちに取り囲まれており、捕虜となってしまう。

1430年5月23日
『乙女』はコンピエーニュで捕虜となった。皮肉なことに、コンピエーニュを包囲していた連合イングランド軍のほとんどはシャルル国王派と国内で対立していた反シェルル国王派(ブリゴーニュ派)であり、『乙女』は同じフランス人の手によって捕えられたのであった。

そして、『乙女』最後の一年が始まる―

第19話


『乙女』捕虜となる
この衝撃的な報せはたちまちにフランス中へと広まることとなる。通常であれば、捕虜となった重要な人物に対しては身代金を支払い、解放を要求するのが当然であり、それがこの時代の常識でもあった。

戴冠後『乙女』たちに対し、冷淡な態度を見せいていたシャルル王であったが、さすがに今回の件に関しては、当然身代金の支払いを行うものだと思われていた。

―しかし、なぜかシャルル王から身代金の申し出が行われることはなく、『乙女』の身柄はイングランド本国へ売り払われることが早急に決まったのであった。

そうして『乙女』は捕えられたコンピエーニュから、英仏海峡に近いルーアンへと移送されていくこととなる。

シェルル王は悩んでいた。『乙女』のおかげで王となれたはずであったにも関わらず、イングランドへ売り渡されていくのを黙って見過ごしたことが正しかったのであろうか、母、イザボーへの恐怖から間違った決断を下し続けていたのではなかっただろうか―

しかし、イングランド側とつながっていた侍従長は王を説き伏せ、流れはミヌゥの想い描くものになっていったのである。

年が明けた1431年2月21日、「戦時捕虜」であるはずの『乙女』は異端裁判の場に立たされていた。

イングランドとしては、フランス国王までも戴冠させた『乙女』を「異端者」として裁くことは、そのままシャルル王の権威を落とすことに繋がり、また、これまでに苦汁を飲まされ続けた報復の絶好の機会でもあった。

この異端裁判の裁判長となったコーションはフランス人であったが、これまでに連合イングランド側の人間として出世を重ねてきた人物だった。かつてシャルルから王位継承権を奪い取る原因となった「トロワ条約」もこの男が中心となって作成されていたものであり、また個人的に自分の栄達を阻む『乙女』に対し、並々ならむ恨みを抱いていた

裁判にあるにもかかわらず『乙女』は弁護士をつけることを許されず、孤立無援で自分を弁護することとなり、対して裁判長であるはずのコーションは検察官も兼ねるという異例ずくめの裁判は開始される。

この後3カ月にも及ぶ審理は、当然のように有罪の結論ありきで進んでいった。コーションらは『乙女』に対し、70もの罪状から12の罪を作り上げ、それによって『乙女』が異端者であることが教会より確定される。

こうして異端者となった『乙女』へ、改悛の誓約書が差し出される。
「今後、武器を手にしない。鎧や、男装をしない」
などといった内容が誓約書には並べられており、『乙女』はそれらの誓約を受け入れることとなったのだった

失意のまま幽閉されるタルトのもとにキューブが現れる。リズを失ってしまったことに悲しむタルトに、キューブはリズのことを話し出す。

リズは裏切りの英雄の孫としてイタリアに生を受けた。英雄の名はジョン・ホークウッド。傭兵として「白の団」という隊を率い、様々な雇い主の間を渡り続け、報酬さえ釣り合えば時には元の雇い主でさえ滅ぼしてしまうような男であった。そのホークウッドに自分の娘を妻として与えてまで「白の団」を召し抱えていたヴィスコンティ家も、後に裏切ったホークウッドの手によって完膚なきまでに敗北させられている。

そんな男の孫としてヴィスコンティ家に生まれたリズは、幼い頃からどんな思いを抱いていただろうか― 彼女が魔法少女になる対価として願ったものはこうだった
「自らの手で真の英雄を誕生させる」

この願いは彼女の中で叶うまで成就しない願いであるが、対価として願った以上はいつか必ず叶えられるはずであった。そしてリズは数々の才能のある少女に出会っていったが、真の英雄になることは決してなかった。そんな失望の先に出会ったのがタルトなのだった。

本来、多少魔力が強いだけの魔法少女でしかなかったはずのタルトが、その願いで力を望んだとはいえ、ここまでありえないようなことを実現させてきたのは、おそらくリズの願いや、この国の人々の希望を求める心が強い因果となって不自然なまでにタルトの力を増幅させていたのであろう―

だが、姿を見せただけですべてを絶望へと塗り替えてしまったイザボーの存在は、タルトやリズの願いの力すら凌駕していたのかもしれない。タルトにはイザボーを倒してほしい。彼女の存在はキューブにとっても不幸なものであるから―

表情を変えずにキューブの話を聞いていたタルトの元に、イザボーと共にミヌゥが現れる、彼女はタルトを罵倒しながら鞭を打ち付けるのであった。抵抗せずにその痛みに耐えるタルト、するとその時、城が大きな音を立てて揺れ始まる。

リッシュモン、ラ・イル、ボードリクールら、かつてのタルトたちの戦友が、彼女を助けようと、大軍を引き入れていたのである。これはシャルル国王の知るところではなく、彼らの独断であった。

ミヌゥたちが対処に向かうと、メリッサ、エリザ、ペルネルがタルトの元に現れる。しかし、タルトは自分のことなどは良いから、外の兵を退かせ、はやく立ち去るようにと告げるのであった。だが、エリザは自身の生い立ちを話した上で、タルトを諭す。そして、外にこだまする『乙女』『乙女』という声に感化されたタルトは、再び立ち上がるのであった。


第20話

再び立ち上がったタルトは、外のミヌゥ、イザボーに立ち塞がる。メリッサ、エリザがミヌゥを引き付けるなか、イザボーに攻撃をしかけるタルト。しかしやはり以前と同じように攻撃は全く効く様子を見せないのだった。

その秘密を解かない限り、倒すことはできないだろうというキューブに、エリザはキューブこそ願いを叶えた張本人だろうと迫る。それに対し、キューブは淡々と説明を始める。

彼女は魔法少女であり、魔女であり、『僕』なんだ―

1385年、わずか14歳にして婚礼のためにフランスにやってきたイザボーは、類まれな才能を持つ少女であった。契約を勧めるキューブに対し、イザボーは逆に様々な質問をしていた。「魔法少女」「願い」「契約」「魔女」とは何か。そして「キューブ」は何者か。

イザボーは全てを望んでいた。フランスもイングランドもポルトガルも、神聖ローマ帝国も。それがキミの望みかい?と尋ねられたイザボーは思いがけないことを願ったのであった。

私はそれを持って望みを叶えていけばいい―
「私の願いは『あなたの全てが欲しい』」

こうしてイザボーは「キューブ」そのものとなった。そして自ら魔法少女を生み出し続け、フランスが崩壊するほどの権勢を得ていった。次に自らの強力な因果を引き継ごうとしていた自分の娘たちを魔法少女にしようと企んでいたが、ここで決定的な運命の変化を迎えた―

肉体はキューブそのものであるため、不滅とはなったものの、魔法少女である以上、彼女の精神はソウルジェムそのものであり、決してそのシステムから逃れることができるものではなかった。だが、イザボーの持つ因果はどこまでも強大であり、母であった魔女の手にかかる直前だった娘の願いを、イザボーの抜け殻は不完全な形で叶えてしまうのであった。

「『お母様』をもとに戻してっ」
それがラピヌの願いであった。そして、残滓ともいえるイザボーの意志は、不滅の肉体では無く、魔女そのものに定着することとなったのである。つまり、イザボーは魔女でありながら、その邪悪な意志を残し続け、己の不滅の肉体を操り人形として、いまだ終わること無い権勢を求め続けているのであった―

そしてイザボーは本当の姿をさらす。

女王(ラ・レーヌ)の黄昏。その魔女は生まれた瞬間にフランス全域を自身の結界内に取り込んだ規格外の魔女なのだった。そこに住む全ての者は彼女に取り込まれており、暗黒の時代で熟成される、全ての民の負の感情を喰らい、より強大な魔女へ、より広大な結界へとなっていったのである。

イザボーが誕生させた魔女は、契約の際に意志を放棄し、心を失くしていた。そのため、キューブにとってはエネルギー回収もできず、イザボーがこのまま領地を広げていけば、この地球そのものが価値のないものになってしまう―そのため、イザボーに対抗できるだけの素質を持つ魔法少女を探していた―

キューブの話を効きながらも攻撃続けるも、やはりイザボーにダメージは与えられない。そんな様子に、ミヌゥは自らの願いを語るのであった。それは―


『母をいかなる魔法少女からも脅かされぬように』
魔女を倒すことができるのは魔法少女だけ、そのため、魔法少女は母に一切傷つけられないようにと願っていたのである。

何もできない一行だったが、タルトは希望を捨てずにいた。しかし、ソウルジェムは次第に濁っていく― もはやこれまでかとキューブすらあきらめかけたその時、タルトの影からリズのソウルジェムが現れる。


リズは魂だけになってもタルトを見守っていた。そしてまさに今こをリズの願いが成就するその時であった。

真の英雄の誕生を―

その時、空に光が立ち込める


第21話 (最終話)

リズのソウルジェムを手にしたタルトはその姿を変えた。そして彼女の攻撃はイザボーを斬るのであった。困惑するミヌゥだが、キューブはタルトがすでに魔法少女とは別の存在になってしまったことを理解していた。

ソウルジェムはとうに限界を超えており、どちらかといえばグリーフシードに近いものになっていた。タルトはもはや魔法少女と呼ぶべきではないが、魔女のそれでもない。完璧なイレギュラーである―

「自らの手で真の英雄を誕生させる」
リズのその願いは、魔力が底をつき、本来魔女となるはずだったタルトの運命を捻じ曲げたのである。

そして、母が傷つけられたことで怒り狂うミヌゥもタルトはねじ伏せ、これで終わらせるというと、上空に扉を出現させる。

「天国の扉(ラ・ポルトゥ・ドゥ・パラディ)」
その瞬間、光はイザボーを貫き、扉の中へ誘うと、彼女が天国の扉と呼んだそれは閉じて消える、そしてリズのソウルジェムは役目を果たし、砕け去ったのである。

母が倒され、その亡骸を前に泣き崩れるミヌゥ。イザボーが滅ぼされたことによって、その力で魔法少女となったミヌゥは、その力も失ってしまう。

目的を達成し、この場を離れようとする一行だったが、タルトは、怒りわめくミヌゥに自ら身を差し出すのであった。
「―私を捕えなさい」

タルトのソウルジェムはすでに限界であったが、すでにグリーフシードと呼んで差支えないものに変質してしまっており、グリーフシードによる浄化は効果をなさなかったのである。リズの願いにより、まだ魔女になっていないこと自体が奇跡であり、そのリズのソウルジェムが崩れ去った以上、戦いを続けなくても、そう時を待たずに魔女になってしまうことは明らかであった。彼女の巨大するぎる因果から生まれる魔女は、ヨーロッパ中に数百年に渡るおおきな災厄をもたらすことは明白であっただった―

「そんなことはさせません」

必死に引き留めようとするメリッサたち、しかしタルトは優しく微笑むと、ミヌゥに自分の身を差し出したのである。

ルーアンへ戻った『乙女』に対し、罪が言い渡される。異端の罪を一旦悔い改めた者が、再び異端の罪を犯すこと、この「戻り異端」に対し下される罪は火刑による死刑であった

火刑はキリスト教による宗教観が支配するこの時代において、現世から肉体を完全に消滅させるという禁忌であり、最悪の厳罰であった。最悪の死に価する「戻り異端者」の認定を受けた『乙女』の最後の時は訪れる。

イザボー・ド・バヴィエールは1435年に没したとされている。「売国妃」と忌み嫌われながらも栄華を誇っていたイザボーだったが、その葬儀は元王妃と思えない程にしめやかなものだったという


ジル・ド・レはその後、自領民である少年たちに対する大量虐殺、聖職者への犯罪などによって宗教裁判にかけられることとなる。 絞首刑となったジルの遺体は『乙女』と同じく火刑に処された。

ラ・イルはなおも『乙女』を救うべくルーアンへと攻め入るも、自身も捕虜の身となってしまう。ポトン・ド・サントライユもこの後捕虜となるが、イングランド軍のジョン・タルボットとの交換で解放される。 解放後の二人は生涯戦い続け、フランス軍にとって最も勇敢な武将であった。

アルテュール・ド・リッシュモンはこの後、宮廷闘争に勝利し、ラ・トレモイユを宮廷から追放する。その後、イングランドとの数々の戦いに総司令として参戦。その全てを勝利に導いた。

シャルル7世はイングランドとの戦いである百年戦争に勝利したフランス王として『勝利王』の名を冠する。後に異端裁判によって汚された『乙女』の名誉を復権裁判の開催によって回復を行った。


ある者は『乙女』の意思を継ぎ大いなる栄光を手にし、ある者は『乙女』への思いのため、その人生を辛く険しいものへと変えていくこととなる。多く者たちが、様々な思いで『乙女』の最後を受け止めようとしていた

そして1431年5月30日


人々が見守る中、タルトは火刑に処されようとしていた。メリッサ、エリザが駆けつけるとすでに火が放たれ、彼女を助けようとするが、タルトはこれを制止する。

自ら犠牲にしても、己の内包する魔女の可能性を消し去る、その行動にキューブは理解に苦しんでいた。しかしキューブはタルトの決意を止めようとしなかったという。

ペレネルはキューブに、なぜそうしなかったのかを尋ねるが、キューブは特に深い意味は無いのだという。タルトはキューブの望みどおり、イザボーを倒してくれたことから、それを「感謝のお礼」とでもいうのかい?と言うキューブ。それに対し、ペルネルはそれを「祈り」だという。感謝すべきもの、愛すべきもの、畏怖なすもの、尊い様々なものに対して抱く思い―

そして人々は『乙女』の伝説の最期に祈りを捧げる―

すべてのことに―ありがとう (メルシー・ヴレモン)
多くの人々が涙し、『乙女』がこと切れると、一羽の白い鳩が飛び立ったのを目撃した。


しばらくして、メリッサとエリザは草原を馬に乗りながら、タルトのことを想っていた― タルトは誰も恨まずに逝けたのか、悔いは残っていなかったのか―
だが、彼女の最期の言葉は皆に届いていた。タルトの祈りは絶望などではなかった―

タルトが本当に救われるのはいつになるのか、それは誰にもわからない。しかし彼女たちはいつか必ず救われる日が来ると信じる

「願いは届くのだから」

光指す空の彼方に『彼女』に導かれるように飛んでいく一羽の白鳩を映し、物語は幕を閉じる。

ジャンヌとその時代 -『乙女』の物語-

以下、第5巻巻末より引用

『乙女』が歴史の表舞台に現れたのは、1429年2月、「ヴォークルールより、シノンへ王太子に会いに行くという『乙女』と呼ばれる少女がいる」といった風聞の記録が最初である。そして、『乙女』がその舞台を去るのは、火刑に処された1431年の5月である。わずか2年程の内、華々しい活躍の期間は、シャルル7世がランスで即位した1429年7月までという、半年足らずである。

その後の苦難の戦闘、そしてコンピエーニュで1430年5月に囚われ、移送期間を含む虜囚生活。そして、不利な異端裁判での戦いがその後半期であった。異端裁判は、のちに処刑裁判へと、その実態を変えていくことになるが、有罪ありきで始まった裁判は、全てにおいて異例、違法ずくめで、文盲の『乙女』に対し、裁判書類の改ざんや、すり替えなども平然と行われていた。すり替えた改俊誓約書の内容に違反したとして、戻り異端の罪を着せられた『乙女』に下された判決である死刑は、当初の予定通りの結果であった。

処刑の日、火刑に処される前の『乙女』が、最後に修道士に向かって語った言葉が残されている。「なんと恐ろしく、残酷なことをされるのでしょう。かつて汚されたことのない私の清浄な体は焼かれ、灰となる。神様にこの誤りと、醜い行為を訴えます」 『乙女』が、この裁判の不正、そして不条理を理解していたことは明らかであった。そうして、群衆が取り囲む中、火刑が執り行われる。

火に包まれながらも、『乙女』は、苦痛のうめきや、恨み言を吐くことなく、ただ、信仰の言葉を口にしていた。今際のさいにもイ工ス・キリストの名を叫ぶ『乙女』に、多くの群衆は涙し、そして、こと切れた瞬間、白い鳩が飛び立っていったのを見たのだという。最早、『乙女』を異端者として疑う者は、イングランド側の人物ですらいなかった。ある者は、「自分は聖女を焼き殺してしまった」と悔い陪席していた判事ですら、「いずれ我が魂の行先も、彼女の待つ場所へ行ければ良いのに」と語った。

『乙女』の死よりのち、長きに渡って続いた100年戦争の終わりが見え始めた、1450年2月15日。シャルル7世は、『乙女』の処刑裁判についての調査を命じた。それは、かつて見捨ててしまった少女への後悔であったか、それとも、政治的な人気を得るためだけに行った偽善的な行為であったかは分からない。しかし、シャルルは、この調査において、特許状をもって証言者に自由な発言を許し、自らに批判的な言動であろうとも罰則を設けることがなかった。

フランス各地で行われた調査において、裁判の不公平さ、様々な不正が明らかとなっていくなか、一人の老女の証言は、人々の注目をひときわ集めるものだった。1455年11月7日、パリのノートルダム寺院には、オルレアン市民に連れられた、『乙女』の母、イザベル・ロメがおり、そこで語られた証言は、自分の娘である『乙女』への純粋な愛や、不当な宗教裁判への怒りであった。


人々はその言葉に心打たれ、ついに機運は熟し、裁判の再審が『乙女』の処刑された地であるルーアンにて行われることとなる。再審は、ローマ教皇庁より派遣された特使の指揮のもとで開かれ、多くの証人が出廷に現れた。その中には、かつて『乙女』とともに戦ってきた、アランソン公爵やバタール・ジャンなどもおり、集まった証人たちは、ある者は『乙女』に対しての感謝。ある者は『乙女』が自分に語った事柄を懐かしむように言葉を重ねる。

入れかわり立ちかわりに行われた証言の全てが『乙女』への思いに満ちていた。そうして、裁判は結審する。ルーアン大司教の大広間で処刑裁判の破棄が宣告され、見守る群衆の目の前で、かつて『乙女』に対して下された有罪判決文が破り捨てられたのであった。この時、1456年7月7日、『乙女』処刑の日より、25年後のことであった―

 

上記の処刑裁判や、いわゆる復権裁判と言われるその再審。現代において、『ジャンヌ・ダルク』の人物像や,その生涯で起こった事などを知ることできるのは、
この2つの裁判によるところが大きい。膨大な裁判記録には、『乙女』本人や、同時代の人々の証言がこと細かに記されており、そこから『乙女』の波乱に満ちた人生を読み取ることができる。しかし、そこには不思議に満ちた証言も多い。処刑裁判の起訴状に記された、「『乙女』は魔法使いであり、いつも身に着けている指輪や軍旗には魔法が仕掛けられている」、「自分だけに聞こえるという天使の《声》にしか従わない」といった怪しげな記録や、復権裁判の時に語られた「『乙女』は、神がかった能力をもって、何度も兵の命を救った」、「敬度な信仰心を持ち、常に指輪を大切にしていた」、という、その神秘性についての証言などが『乙女』の物語を彩っている。

 

『ジャネット』『ジャンヌ』『口レーヌの少女』『乙女(ラ・ピュセル)』『奇跡の聖女』
『異端者』、『魔女』『オルレアンの乙女』、様々な名で呼ばれた一人の少女は、のちの1920年5月6日に口ーマ教皇より列聖され、「聖人」としての認定を受けることとなる。力トリックにおいて最も高名な「聖人」の一人となった『乙女』は、今も世界中で愛され、敬われる存在となり、『乙女』の成し遂げた物語は、その生涯を知った人々の心を揺さぶり続けている。


―なお、貴重な史料として、オルレアン市が所蔵する、『オルレアン写本』と呼ばれるを記録した写本が存在している。
フランス古語で記された、その本の中ャンヌ・ダルクと呼ばれた少女の名は、「Tart」と綴られている―




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